インタビュー

法律家の視点で見る、仮想通貨の今と将来(後編)

アンダーソン・毛利・友常 法律事務所河合 健 氏

撮影:マネーオール編集部

世界をリードする、日本の仮想通貨に関する法整備。その最前線で活躍され、国内仮想通貨業界の法律家では第一人者である、アンダーソン・毛利・友常法律事務所 河合 健弁護士に、仮想通貨の現状や動向、さらにその将来についてお話を伺いました。

アンダーソン・毛利・友常 法律事務所
河合 健 氏

京都大学法学部卒。法学士。東京銀行/東京三菱銀行(現 三菱UFJ銀行)に勤務後、神戸大学法科大学院にてさらに法務博士(専門職)を修める。その後、最高裁判所司法研修所修了(62期)し、2009年にビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業)へ入所。2015年には統合により、現事務所スペシャル・カウンセルへと就任。2018年1月より、現事務所パートナー就任。主にフィンテック企業及び既存金融機関に対してフィンテックに関連する各種のリーガルアドバイスを行う。仮想通貨、イニシャル・コイン・オファリング及びブロックチェーンに関して、特に多くの案件を取り扱うほか、事業者団体の法律顧問を務め、また、内外の公的機関等への政策アドバイスにも積極的に取り組む。

インベストコア株式会社 代表取締役社長CEO
伊藤 慎佐仁 氏

株式会社三菱銀行(現:株式会社三菱UFJ銀行)で為替資金部などに勤務後、ソフトバンク株式会社の財務部にて大型の資金調達などに従事。SBIホールディングス株式会社の取締役常務執行役員、ヤフーグループのワイジェイFX株式会社の代表取締役社長CEOなどを歴任。2016年には社会的インパクト投資を実践するネクストシフト株式会社を創業。インターネット金融の黎明期から関わり、銀行・証券・保険・住宅ローン・FX・投資助言業など幅広い金融事業に従事してきた。これまで、上場企業2社で代表取締役、上場企業3社で取締役。現在は、社会的インパクト投資やブロックチェーンなどフィンテックに幅広く関わっている。

法律家の視点で見る「仮想通貨マイニング投資」

(伊藤)最近、仮想通貨マイニングの案件は増えてるいのでしょうか?また、仮想通貨マイニングに投資する際、気をつけなければいけないポイントについて教えてください。

(河合)ビットコインは少し価格が下がり、仮想通貨マイニング投資の損益分岐点に近づいてきていて、今後どうなるかは分かりませんが、去年後半ぐらいから非常に増えています。
しかしマイニングへの投資は非常に不透明であることは確かで、クラウドマイニングの場合だとハッシュパワーの購入のような形が多いですけども、それって一体何なのかがハッキリしないんですよね。環境を整えた業者でなければ、思ったほどの成果が上がらないことはあり得るので、かなりリスクの高い投資にはなるのかなあ、と思います。そういうところの見極めは難しく、どうしても実績があるところで、という話になりがちではあります。
法律家の面から言うと、スキーム的にいわゆる証券投資、日本でいうところの集団的投資スキームに当たるのか、これ我々にとっても非常に悩ましいですね。頭を悩ませながらアドバイスしているんですけれども、ものによっては業法違反の可能性のものもあるんですよ。違法とされると成り立たなくなりますので。

途中で辞めなければならない可能性がある事は、投資家のリスクとなりますよね。

ええ、そうなんです。半分くらいしか回収できずに終わってしまう事はあり得るので。ただ一般の人にはなかなか分かりづらいですよね。

ポイントは、クラウドマイニングの仕組みが、集団的投資スキームに当たると、いわゆる金融商品取引業で登録している業者でなければならず、登録業者なのか、それにあたらない仕組みでやっているのか、あるいは違法なのかの見極めが一般の人は難しいということですよね?

そうですね。法律家にとっても難しいです。
「機械を販売します」という事であればあまり問題ないんでしょうけど、例えば、「ハッシュパワーを売る」とか、「レンタルする」とかいうものは見極めが難しいですね。必ずしも直ちに金融商品取引法(金商法)に当たるってわけではないと思いますが、スキームの組み方次第でもあると思うので。

仮想通貨マイニング投資について、投資家がトラブルあった時に相談できるところはあるのでしょうか?

仮想通貨マイニングに関しては今ないのかな、と思います。仮想通貨交換業の方については、法律上、苦情相談措置、それから紛争解決措置の枠組みがあります。苦情相談は今のところは各社ごと、紛争解決は各社が委託している弁護士会ですね、東京三会ですけど、東京3つの弁護士会があり、そこで金融ADRが出来るという話ですけども、マイニングについてはそういったものは何もない。
※金融ADR:金融融機関と利用者とのトラブル(紛争)を、業界ごとに設置される金融ADR機関において、裁判以外の方法で解決を図る制度。

仮想通貨マイニングは新しい金融商品、投資対象として出てきたので、投資家としてはチャンスだとは思うのですが、リスクの見極めですね。我々もリスクも含めて客観的に伝えるようにしたいと思っているんですよね。

リーガルについては、例えば各国ごとにきちっとしたリーガルカウンセルをつけているというところもあります。大手の中で私が関わっているものだと、日本サイドは我々に、アメリカはここの法律事務所に頼む、というところもあって、そこに頼んでいるんだったら大丈夫だろう、とかいうのは分かるんですけど。きちんと判断しなければいけないと思っています。

日本国内ICOの現状と将来

話は変わりまして、日本国内の仮想通貨ICOの状況は今どんな感じなんでしょうか。

新しいものは日本では出てないと思うんですね。日本では仮想通貨の定義で、特に不特定な者との間で、ビットコインやイーサリアムと相互に交換できるものは2号仮想通貨に当たるというのがあります。
1号仮想通貨は、不特定の者に対して決済に使える、かつ売買が出来る。売買というのは金銭と交換できる本筋の仮想通貨なんですね。
2号仮想通貨は、ビットコインやイーサリアムのような1号仮想通貨と相互に交換できる電子的な財産については、仮想通貨として捉えようという定義になっているんです。定義は結構広くて、電子的データで移転ができ、ビットコインなどと交換できれば当たってしまう訳です。
現実的に交換されているものが該当するのか、理論的に交換出来るものがそうなのか、というところの解釈が必ずしも定まっていなかったんですが、2017年末ごろからの行政解釈ですと、理論的に出来ればもう仮想通貨にあたるという事になっている、と私は理解しているんです。

例えばERC 20規格で発行する場合、当然イーサリアムと相互交換できますので、仮想通貨にあたり、日本の居住者に販売しようとするときには仮想通貨交換業が必要ですね、となります。仮想通貨交換業はそう簡単には取れないので、登録を持っている人に全て委託する方向で進むかと思っていたところに、コインチェックの事件が起きました。仮想通貨交換業者が仮想通貨を新規に取り扱うためには変更届を金融庁に届けなければいけないのですが、金融庁は事件の後処理や検査でお忙しく、もう見る暇がない、という状態になっています。

そういう事情だったんですね。

はい、この事件以降、トークンをセキュアに取り扱う事が出来る能力については金融庁としては非常に気にされているところですね。従って審査プロセスがかなり重たくなっているし、それはICOコイン以外にも、多分2018年1月の途中以降、新しい仮想通貨の日本での上場はないと思うんですけど、そういう事が影響しています。

今は仮想通貨のICOがダメと明確にルールなったことで止まっているわけではない、ということですか。

ないですね。はっきりしているのは、仮想通貨交換業を自分で取るか、仮想通貨交換業者に全部委託するかどちらか、というのは解釈としてほぼ定まっている。そうではなくて実態上販売されているものはありますけども、適法かどうかというのは疑義もあるところである、と。

ある程度落ち着いてくると仮想通貨ICOも投資対象として始まる可能性もありますし、先ほど伺ったファンドと同じですけど、どういう案件に投資できるかというプロジェクトの精査ですよね。

そうですね。今仮想通貨ICOを取り扱おうとされる仮想通貨交換業者の方は、内部審査体制を充実させようとされていて、そういうところのドキュメンテーションのお手伝いもしています。
今後仮想通貨ICOのセカンダリーのエクスチェンジャーはやらないけれども、プライマリーだけをやるために登録しようとされている方もいらっしゃって、自主規制ルールで一定の枠組み作りをしていくことを考えているので、その辺りが整ってくれば、簡単ではありませんが、ある程度は出てくることになると思います。

仮想通貨に対する法規制と、その影響

一般的にも話題になった事件を契機に、コンプライアンスもかなり強化されてきたと思いますが、仮想通貨の取引所はそれ以外の金融商品と比べると、まだまだ決め事が少ない面があると思います。
今後は、金商業並の体制にしなければならない、という事になったと思うんですが、お客様の資金・資産の分別管理、レバレッジ比率、自己資本比率規制など、取引所の健全性を金融商品として見た場合に担保する仕組みは整備されていくのでしょうか?

整備されていくと思います。考えなければいけないことは、まず法律は金商法ではなく、資金決済法に基づいているということです。法律を新たに作るとしてもある程度の期間が必要ですし、国会を通ってから施行されるまでにも時間がかかります。資金決済法の中で出来ないことについて、日本仮想通貨交換業協会で、どこまで取引所に対するルールを定めるかがポイントになってくると思います。
法規制はそのような実態を見ながら、どこまでやるのか、という議論になっていくでしょう。今、法律上規制のないデリバティブ、仮想通貨のFXと言われているものをどうするか、という問題もあり、単純ではないわけですね。

また、いわゆる取引所ビジネスのレギュレーションと、普通の仮想通貨取引に対するレギュレーションを全く全部同じ枠組みでやっていいのかという議論があると思います。いまは仮想通貨の取引所、特にそれなりの金額で預かるというビジネスについては、証券会社のビジネスと実はそんなには変わらないという話があって、全てではないけれども、当たっている部分もある。いまの資金決済法は、仮想通貨のそういうところを区別しない建て付けになっているので、全体として厳しいルールにしてしまうと、仮想通貨のお金を預からない形の取引であるとか、普通にブロックチェーン上で仮想通貨を流通させる仕組みとか、そういうものまで厳しいルールを当てはめてしまうことになってしまいます。

そうなると、仮想通貨ビジネス、ひいてはそのブロックチェーンの技術の進歩までも止めてしまう可能性があるので、そこはうまく幾つかに登録の仕組みを変えるとかもう少しきめ細やかなアプローチにしていかないと難しいのかなあ、と思います。
大手取引所を制御するために、ブロックチェーンのスタートアップまで縛ってしまうようなことがあると、イノベーションにとって大きな弊害になるので。

ひとつひとつのコインについて、機能面での法律の適用はどうなっていくんでしょう?今は秘匿性の高いコインなどは取引所自体が扱わない傾向がありますが、そういった、コインの機能自体を法律から見たときの良し悪しは、この先の色々な機能追加でさらに出てきそうですが、法律の監視の対象になったりするんでしょうか。

匿名コインという名前が良いのかどうか分かりませんが、マネーロンダリングに使われたり、テロ資金に使われたり、ということが当局サイドとしては気になる面というのは否定は出来ないですよね。しかし、一方では良い面もあって、例えば今、どこのアドレスに巨額の仮想通貨があるのか見えているんですよね。そこが一旦結びつくと、すごい攻撃を受けたり、場合によってはそれを持っている人が狙われたりする可能性があるんですよ。それを隠したいっていうのは、当然のニーズとしてやっぱり存在すると思うんですよね。

ですので、一律に秘匿性の高いコインが悪い、というのは少し短絡的な見方なのかなあ、と個人的には思うところです。やはり良い面もあれば良くない面もあるので。
機能については、例えばセキュリティトークンの中で、本当に証券に当たるものについては、日本では金商法の規制、海外でも証券規制にかかりますし、そのトークンの機能で差が出てくるっていうのはもちろんあります。法律は「経済の中でどういう機能を果たすか」という話に合わせてできているはずで、これはプリペイドカードだとか、証券だとか、という風なアプローチで考えることは不思議なことではないのかなと思います。

仮想通貨が本来持つ価値として、中央集権的ではないところがあると思いますが、そういう面を法律家から見てどうお考えですか?

法律家にとっては非常に面白い分野ですよね。通常、法律は法域、普通は国、ごとにルールが決まっているんですけれども、仮想通貨はその枠を簡単に飛び越えてしまうわけです。それが日本だけで規制しても仕方がない訳ですけれども、なかなかグローバルな法律の枠組みを作るのは難しい。グローバルな法的枠組みは、色々な分野で長年の時間をかけて検討されてきています。
例えば、日本で出た判決を、海外でも執行出来るか。これはひとつひとつ条約があったりとか、国と国との関係で決まってきたりとかするんですけれども、仮想通貨はそういう枠を飛び越えるので、既存の法の在り方では解決できない問題ができている流れが止まる訳でもないです。こういう時に適切に市民の権利を守っていくにはどういう枠組みがいいかっていうのは、21世紀ならではの、まさに課題だろうな、と。

直接的で自由な金融の未来、例えば「個人が仮想通貨ICOをして、買ってもらって、成果に対する配当を出すことができれば、将来、個人が直接金融の恩恵を受けられるようになるんじゃないか」、とある大手の仮想通貨交換業者の社長が仰っていたことをとても興味深く感じました。
しかし実現のためには、法律による影響が大きいイメージがありますが、解決されるとお考えでしょうか?

それは何とも言えないところです。
現在の株の仕組みは、証券規制の度にどんどん色々厳しく複雑なものができている。株式会社が初めに考えられた頃はあまりルールもなく、色々な問題が起こって今のルールが出来上がってきていると思うんですよね。
結局、人の信用、お金を集める人が信用できる人かどうか、という事がテーマになっていて、信用を担保する仕組みをどう作るか、を法律が考えてきたと思うんですけれども、仮想通貨ICOはまだそれを作れてないと思う訳です。有名な人にはお金集まるけど、無名な人には集まらないことになってしまう。その有名な人がドロンしたらそれで終わり、みたいな形だと思います。有名な人は自分の名前が失われるリスクと引き換えに考えるので、起きないのかもしれないですけど、それを担保するような仕組みがないですよね。

たぶんこれまで、テクノロジー以外ではそれを担保する仕組みが結局できなかったから今の仕組みになっているので、仮想通貨の取引が全て記録されていることとか、エスクロー(預託)的な仕組みとかをうまく使うなどで、個人で調達してもスキャム(詐欺)ではないとか、そういう事が確保できるようなものをテクノロジーで解決していけないと、結構しんどいかなあ、というふうには思います。
法律は先に実現することはなく必ず後追いなので、政府が推奨する方向にどんどん動くとも思えないですね。まずこういう仕組みであれば人の信頼を担保できる、というものが出てくるかどうかでしょうね。ブロックチェーン・ビットコイン自体が、目から鱗みたいな話だったじゃないですか。可能性はあると思いますけどね。

仮想通貨関連で様々な事件が起こったことで、少しずつですが新しいルールが定まっている印象を持っていますが、投資として考えられる安定的な選択肢はできていくのでしょうか?

なかなか難しいところで、2017年に仮想通貨が日本で盛り上がったのは、一定の枠組みの中だけでした。だけど今はその枠組みが緩やかになり盛り上がった、という部分があり、これには良い面もあります。
しかし、ルールというのは運用をどうするか、という事であって、恣意的にされると厳しいルールや萎縮効果が働く可能性があるので、ルールの決め方と運用はよく考えていかなければいけないと思います。

【第1回】のインタビューはこちら

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